ふれしゃかフェス - 北樹出版の大学教科書

北樹出版の大学教科書

第1回「社会を紡ぎ直すために」

ケイン樹里安×上原健太郎×辻泉 2019.11.8(金)@代官山蔦屋書店

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この日は『ふれる社会学』トークイベントふれしゃかフェスの記念すべき第1回目。編者のケイン樹里安先生、上原健太郎先生が中央大学教授辻泉先生を迎え、辻先生の『ふれる社会学』を読んだ感想を交えながら、それぞれの先生方の社会学との出会い、社会学の流れと『ふれる社会学』の位置、そして社会学のこれからについて語りました。また、実際のフェス中はみなさん「ですます調」で話されておられましたが、「レポート」の性質上、細かな言い回しはカットしております!それでは、どうぞお読みくださいませ!!

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~『ふれる社会学』の内容にふれる~

◆辻先生より、『ふれる社会学』の魅力


◆編者の先生方から

若手中心で書こうとは考えていた。いかに社会学へのとっかかりをつくるかも。
というのも、(ケイン先生が)講師としての初授業で400名の大学生を相手にしたとき。社会学の古典を説明すると学生は興味を持てずに寝る。大学生にもピンとくる、親しみやすいところの話を若手の研究者中心のチームで書こうと考えた。
(上原先生)勉強が苦手な人のための本でもあって、社会学の教科書としては捨てている部分も多い。それはこの本の長所であり短所でもある。ただそれは自覚的にやったところでもある。概念や理論を少なくした分、社会学の基礎知識としては不足している。本書の至るところにリンクをはっているので、教科書へと繋いでいく入門書として活用してほしい。

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~社会にふれた、きっかけは?~

◆辻先生

自宅リビング。そこが社会の原風景。家の前を走る電車が示す、正確に回るものとしての社会を見てきた。その一方、76年生まれの辻先生は小学校の終わりに昭和の終わりを迎え、大学受験時に阪神淡路大震災、入学後にオウム事件があった。社会はこんなに変わるのだ、ということをテレビで見てきた。鉄道が示した正確な変わらない社会と、テレビから知らされる、変化するものとしての社会の両面のイメージが根本にある。

◆ケイン先生

平成元年生まれなこともあり、辻先生の言うような阪神淡路大震災などの変わる社会の記憶が薄く、実感に乏しい。それよりもミクロなところが社会だった。例えば小さいころ、見知らぬ人には「ハーフ」としてかわいいと言われ、しかし学校に行けばいじめられる。どちらの扱われ方にも違和感があった。さらに接する人が変わっても同様の違和感を抱く経験が続いた。これが社会にたいする原体験かもしれない。

◆上原先生

1985年沖縄南部の生まれ。今思えば、沖縄の中でも貧困地域だったかもしれない。大学に行くのも珍しい環境だったが、それが当たり前の中で成長した。就職活動で新卒採用に必死になる大学の同級生たちやニート・フリーターに関する報道。それらと地元の友人たちとのギャップに疑問を抱いたのが社会との接触かもしれない。いろんな社会が存在するといった実感のようなもの。


~社会学観~

◆辻先生

95年に大学入学したので、社会学は「社会(の常識的な見方)を壊す」常識破壊ゲームだった。世代によって社会学観は違うかもしれない。
明治期以降、あるいは戦後以降に築かれてきた、日本型近代社会があちらこちらでほころび始めてきたときに雄弁に指摘したのが社会学だった。90年代は社会学ブームであり、宮台真司、吉見俊哉、大澤真幸らが活躍していた。テキストで言えば『別冊宝島 社会学入門』『AERAムック 社会学が分かる』『ジェンダーの社会学』『パラドックスの社会学』を夢中で読んだ。社会学のスタートは「壊す」ことだった。
その後、バブル崩壊などを経て日本型近代社会はかなり壊れてしまった。そして社会学的「常識破壊ゲーム」ないしは「裏読み」的作法は、インターネットの普及により人口に膾炙した感がある。いまはググったら直ぐに常識の壊し方がわかってしまうし、社会が壊れすぎている。そのため、むしろ今の若い人に対しては社会のイメージをつくる・触れさせる方が大切なのではないかと考える。そのための本書でもあるのかと。

◆ケイン先生

今の若い人は社会のイメージをもちにくい。社会の仕組みにふれる経験、そのきっかけをつくるところから始めないと。常識を共有しきれていない社会を生きてきたから、常識を破壊する社会学にピンとこないのかもしれない。自分の周囲、ミクロレベルでの社会しかない。
また、今の大学生も自分の問題と考えがちで、自分で解決しようとする傾向を感じる。講義のリアクションペーパーでは「~できなかった自分が悪いんですよね」という文章をよく目にする。例えば今年のリアクションペーパー。「女の子だから大学に行かなくてもいい」と言われたことのある学生が400人中4人いた。そういうことについても、親と自分の関係、誰かと自分の関係として捉えている印象がある。
それに対して、ジェンダーや家父長制の問題があり人々があがいてきたことを社会学で教えたい。自分の問題だけではなく、社会の問題もあると気づかせたい。それができる本書にしたかった。普段の関心に社会学の理論や概念をプラスしたい。

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~社会学にふれたのは?

◆辻先生

本書の人名索引P149について。新垣結衣とマックスウェーバーが並ぶような幅広さが面白い。社会学者の名前に注目して見ると、50年代生まれの「壊す」社会学の研究者は少ない印象。本書ではそれらと違う社会学をしたいのかと思ったが、どうか?またお二人は社会学にどう触れてきた?
例えば本書10章以降では大阪市立大学(ケイン先生、上原先生の出身校)的な良さ、フィールドに出向き、寄り添うといったところが出ていると思う。都市の現場、社会に出ての社会学。

◆上原先生

大学では「壊す」社会学の代表的な研究者である宮台真司さんに批判的な先輩がいた。それを真に受けたところもある(笑) そういった研究者を超えるのに先輩たちがどうしていたか?というのが社会学のトレーニングの基本だった。とりあえず現場へコミットしろ!という向きもあった。

◆ケイン先生

常識破壊ゲームとしての社会学の雰囲気が所属していた大学ではあまりなかったと思う。「破壊」の社会学は、社会分析や診断の面がある。こういった社会学のスタイルは、実は関東ローカルで強く起こったものだったのでは、とすら思う。自分が大学で「社会学を面白い!」と思ったのはそういった面ではなかった。


~『ふれる社会学』にふれるとどうなる?~

◆ケイン先生

「教科書」としてはあまり考えていない。「教科書」と言うと、しばしば「大学四年間使え、大学院入試にも使えるもの」が重宝される。それは一面エリート主義的で、社会学っておもしろそう!という人を切り捨てている。そういった「教科書」よりも、何かに苦しんでいる人にいらんことを言わないでいられる「やりかた」を示せるようなもの、あるいは、
何気ないひとことが良くない仕組みにアクセルとして機能していないか?と考えさせられるものとして役立てられれば良いなと。
個人化、複雑化する社会の中で悩んでいるときに何か手渡せる本として。

◆上原先生

複雑な社会を複雑に記述したいという思いがある。それを読者へのお土産にするということが自分たちの世代の社会学ではできるのではないかと思う。簡単に語れないことを語っていく必要がある。

◆辻先生

『21世紀の現実』執筆時、原稿に対し、宮台先生から読者へのお土産がない、と怒られた。その点、10章は人が知らない現場についての論考でお土産がある。学校が大事な拠点に使える、ということの示唆。これもお土産。
また、90年代社会学ブームを2.0だとするならば、『ふれる社会学』は、ふれしゃかフェスなど実践を交えた新しい社会学3.0なのでは。

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~質疑応答~

Q:熱心な学生以外にも社会学のエッセンスを広めたい、とのことですがどういう戦略を持っていますか?

A ▼ケイン先生

まずは場の多面展開。こういう書店イベントをすることも一つ。学校関係、公民館など、場所を多方面化したい。他には、とっつきやすく見た目で購入したくなるようなデザインの本にすることも気を付けた。さらに、ヘイト本への対抗言論をどれだけつくれるか。いろいろな人と繋がりながらやっていくことも意識している。

A ▼上原先生

学生を連れて本屋に行くことも一つ。「本を読め!」と言うだけでなく実際に読書空間へ連れ出す。

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Q:本書をどう打ち出していく?

A ▼ケイン先生

現在ではカジュアルな教科書が出しづらい雰囲気がある。しかし5年後10年後には、概念や理論が少なく読みやすい、しかし教科書としても機能する本書のような書籍の棚がさまざまな書店にできるといいなと考えている。

A ▼執筆者のお一人湘南蔦屋書店の松本さん(書店員の方の目線でコメント)

自分が大学生のときなら楽しかっただろう本棚を書店につくってみた。しかし学生が書店に来ない現実もあり、実際に届けることは難しくなっている。アラフォー、アラフィにささる棚になっている。

A ▼辻先生

社会の分断は加速度的に進みつつある。昨年、ロスに行ったが、アメリカでは、富裕層は郊外のゲーテッドコミュニティに住んで、車でショッピングモールに通うだけでありもはや都心部には見向きもせず、本当に社会の分断が進んでいた。
ロスの中心部には、The Last Bookstore(地球最後の書店)というシャレの効いた名前の古本屋があったが、日本はそうなる前に、もっと書店の役割を見直すべきだろう。



そして、代官山蔦屋書店さんのコンシェルジュ宮台さんによる本棚ツアー
(なんと、当日急に開催してくださいました!)


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以上駆け足ですが、第1回フェスレポートでした!
本日のキーワードは本の「お土産」。社会学3.0、これからの課題です。


第1回フェスの模様はダイジェスト版として動画での視聴ができます! こちら→ダイジェスト版



ふれしゃかフェス第2回(ジュンク堂池袋本店)のレポートはこちら→ふれしゃかフェス第2回

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ふれしゃかフェス第4回(Readin’Writin’ BOOK STORE)のレポートはこちら→ふれしゃかフェス第4回

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